和菓子にかける想いは誰にも負けない【菓匠 花桔梗/一朶】 代表 伊藤 誠敏

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菓匠 花桔梗/一朶

伊藤 誠敏

菓匠 花桔梗/一朶

伊藤 誠敏

今回は、名古屋市内で知る人ぞ知る有名和菓子店「菓匠 花桔梗」ならびに「一朶」の最高技術責任者(CTO)を務める伊藤誠敏さんにインタビューをしてきました。

伊藤さんは両和菓子店の代表という立場であると認識しておりましたが、社長さんではないのですね?

はい、そうなんです。
花桔梗の方は私の同級生である村瀬が、一朶の方は妻が経営をしておりまして、私は職人なんです。和菓子業界では、職人のトップが代表として表に出ることがほとんどなんですよ。
やはり商品である和菓子そのもののことや作り手のことを一番理解しているのは職人ですから。

ーなるほど、そうですよね。
伊藤さんのご実家は老舗和菓子店の美濃忠さんだとお聞きしたのですが…

はい。私の祖父が四代目で、五代目は叔父が継ぎ、父は職人として従事している形でした。
父からは一度も「あとを継いでくれ」と言われたことがなく「やりたいことをやれ」という方針だったものですから、実は、就職活動の時期にマスコミ関連の仕事がしたいなと思ってテレビ局の面接を受けたりしていたんですよ。
でも、それを知った叔父に呼び出されまして。
叔父には子供がいなかったものですから、甥である私と私の弟に、それぞれ経営と職人という立場で継がせるつもりだったわけです。
父と叔父と三人で膝を突き合わせて話し合い、そこで継ぐ決意をしました。
ただ、卒業してすぐにというわけではなく、まずはアメリカで経営の勉強をして来いということで、学費も叔父が全部出してくれる形で、アメリカの大学に進学しました。

ー学費を全部!伊藤さんにかける想いは相当だったのですね。

そうですね。ありがたかったです。ただ、その叔父がその二年後に急逝してしまって…。
相続で、美濃忠は叔母が継ぐことになり、我々は追い出されるような形になってしまったんです。それをきっかけに、父と私と弟の三人で始めたのが「花桔梗」でした。

ーそんなことがあったのですね。

そうなんですよ。さらに、そのあと僕と弟はそりが合わなくなってしまって、僕は花桔梗を一度離れ、妻と一緒に立ち上げたのが「一朶」です。

ーなるほど!

そこからしばらくは花桔梗からは離れていまして、その間に、縁あって群馬県前橋市の商店街でも「なか又」という和菓子店をはじめました。

ー前橋ですか!?

そうなんです。当時、メガネのJINSのIT関係の仕事を一手に任されていたのが、今花桔梗の経営を任せている同級生の村瀬で。
JINSの田中社長が、地元である前橋を盛り上げるためにはじめたプロジェクトの一環で、村瀬が前橋の商店街で店を始めることになったんです。
さて何をやろう、と考えたときに、「和菓子がいいんじゃないか、そういえば同級生に和菓子屋がいたな!」ということで連絡があったのがきっかけで。
経営は村瀬、製造は僕が担うという形で始めました。

ーそういうことだったんですね。前橋にもお店を出されているのは知りませんでした。
経営が村瀬さん、製造が伊藤さんという形は、今の花桔梗と同じですよね?

そうです。前述のとおり、僕はいったん花桔梗をでて、父と弟が花桔梗をやっていたわけですが、4~5年前に弟が警察沙汰を起こしてしまって大問題になり…(苦笑)
僕が戻ることになったので、村瀬にお願いしてなか又と同じスタイルでやっていくことにしたんです。

ーいろんなドラマがって今の形になったわけですね。

花桔梗と一朶、それぞれの商品についてもうすこし詳しく教えていただけますか?

はい。実は、和菓子屋というのは、大きく三つに分かれるんです。
一つ目は、茶席、お茶会用の上生菓子をオーダーを受けて作る「御菓子処」
二つ目は、豆大福や土用餅など、朝、あらかじめ作ったものを並べて売る「朝生菓子屋」
三つ目が、神社やお寺さん向けに、落雁などの干菓子を作る「干菓子屋」です。

ーへえー!それは知りませんでした!

今は、御菓子処と干菓子屋に関してはそれだけだと商売として成り立たなくなってきて、朝生菓子も置いたりしているので、境界がわかりづらくなっているんですよね。
この三つのくくりで行くと、花桔梗は「御菓子処」です。
なので、本来はオーダーを受けてから作る上生菓子がメインのお菓子です。
そこから派生して、京都の焼き菓子屋さんと共同開発した「花どら」は、もちもちした食感が当時はすごく斬新で、看板商品の一つになっていますね。
今、名古屋の観光協会等と共同してぴよりんともコラボしたりしています。
箱を開けるとQRコードがついていて、観光名所が見れたりするんですよ。

ーぴよりんコラボかわいいですね。一朶のほうはいかがでしょうか。

はい、一朶は「朝生菓子屋」です。
一番の看板商品は豆大福ですね。あとはみたらし団子も人気です。
フルーツを使った大福は、全国的にみても他店よりもかなり早い段階で売り始めていましたね。

ーお話を聞いているだけでおなかが空いてきました(笑)

これまでで一番嬉しかったエピソードを教えていただけますか?

はい。毎年1月上旬に、裏千家の新春茶会が開催されるのですが、そこからお菓子のオーダーを頂くことが和菓子界では一つの名誉のようなものなんですね。
昨年、花桔梗のお菓子をご用命いただいて、1500~2000個のお茶菓子を作らせていただいたんです。
職人たちと気合を入れて、見た目はシンプルだけど香りや舌ざわりなど、細部までこだわった上生菓子を納めさせていただいたところ、それがものすごく好評で。
そこから、そのお茶席に来ていた先生方からの注文もすごく増えましたし、名誉ある茶会で認められたということがなによりうれしかったですね。

ーそれはすごいことですね。
逆に苦しかった時期はありますか?

それはもう、立ち上げてすぐの時期ですね。最初は全然人が来なかったんですよ。
一日の売り上げが400円だったこともあります(苦笑)
そうなるとお菓子を捨てないといけない状況になってしまうので、その時はとてもつらかったですね。
美濃忠というバックグラウンドがあることに甘えていたなと思います。

ー今からは考えられないお話です。
そこからどうやってここまで売り上げを伸ばしてこられたのですか?

そうですね、花桔梗に関しては、見ていただいた通り建物のデザインがとても斬新で。
30年近く前に建てたのですが、当時、とある東京の和菓子屋さんがリノベーションした建物を見てものすごくかっこいいなと思い、現場を見に行って、その帰りにすぐ手掛けたデザイナーさんのところを訪ねてお願いして建てたんですよ。
それが、あるとき商店建築という建築雑誌の表紙になり、そこから建築デザイナーたちが世界各国からくるようになりまして。
その盛況ぶりを見た近隣の方が、来てくれるようになったような形ですね。

一朶に関しても、入り口をあえてわかりづらい場所に設けて斬新なデザインにしたのですが、だんだん「面白いつくりの和菓子屋がある」という口コミが広がって、PS金というTV番組で取り上げていただきまして。
そこから2か月間くらいは毎日行列という状態になり、それと同時期にSNSをやり始めたことがきっかけで、お客さんが定着していきました。

それぞれ、こういうきっかけはありましたが、売れなくても安い原料に変えたり、妥協をすることをしなかったのはよかったと思いますね。
和菓子は単価が安い商品なので、お客さんの数を増やすとか、リピートしてもらうことでしか売り上げがあげられないんですよ。
さぼったりずるいことをするとすぐに跳ね返ってくる世界です。
結局は、地道に積み重ねてきた結果が今につながっていると思いますね。

ーそうですよね。いくらメディアの影響があったとはいえ、物自体がおいしくないとリピーターにはつながらないですよね。

伊藤さんの「これだけは負けない!」というところを教えてください

お菓子作りに対する手間のかけ方や、原料の選別にかける想いですね。
朝はだいたい2時半に起床し、3時に一朶に入ります。
だいたい9時ごろまでにお菓子を作り上げ、次は花桔梗に移って仕事をして…という毎日です。
あんこに関しては、僕しか炊けないんです。
お菓子に向き合う時間は相当長いですね。

ーお菓子作りに対する並々ならぬ愛を感じますね!

最後に、今後のビジョンをお聞かせください

花桔梗に関しては、これからも「御菓子処」というスタンスを貫いていきたいと思っています。
やっぱり僕は、「その日のうちに召し上がってください」が究極のおもてなしだと思っていて。
本来の和菓子文化においては、日持ちのするもの=前もって買えてしまうので、それをお土産に持っていくのは失礼、という考え方だったんですよ。

完成品は当日中が期限ですが、材料である生地には砂糖を入れたり、葛やわらび粉などは水分を極限まで飛ばして、日持ちがするようになっているんです。先人の知恵ですよね。
こういう世界は家内工業だからこそうまくいくと思っているので、花桔梗に関してはこれ以上規模を大きくしていくことは考えていないです。
一朶に関しては、海外へのチャンネルを開きたいなと思っています。

今、世界でお茶・抹茶がすごく浸透してきているので、それに合うお菓子として、和菓子が進出するのにとてもよいタイミングではないかと考えています。
和菓子の世界には日本の文化・歴史・背景があるので、同じような歴史観があるヨーロッパや、アメリカへの進出を考えていますね。
ただ、体力的にかなりしんどい仕事ではあるので、10年後くらいにはリタイヤして、日本の涼しい場所で畑をやりながらのんびり過ごしたいなぁ、と思っています(笑)

ーそうですよね。伊藤さんの日常をお聞きして、お菓子作りにかける熱い思いと、愛がないと絶対にできないことだと痛感しました。くれぐれもご自愛いただき、おいしい和菓子をたくさん作ってください!本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございました!

※言うまでもなく、インタビュアーは帰りにたくさんの和菓子を購入し、ホクホク顔で帰路につきました。

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一朶

菓匠 花桔梗

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