PROFILE

株式会社しいたけ屋平松
平松 栄毅
日本ではわずか5%しかない、原木シイタケにこだわる理由
ーまず、平松さんのシイタケについて教えてください。
うちは原木シイタケ専門なんだよね。菌床シイタケは一切やってない。
今、日本で流通してるシイタケの95%が菌床栽培なんだけど、俺はあえて昔ながらの原木栽培にこだわってる。
— それって、すごく珍しいですよね?
うん。菌床シイタケは、おがくずを固めたブロックに菌を植えて育てるから、たった100日、3ヶ月くらいで収穫できる。でも原木シイタケは、木に菌を打ち込んでから2年かかるんだよね。
そりゃ、効率を考えたら菌床の方がいいよ。でも、味も香りも全然違う。
菌床と原木を食べ比べたら一発でわかる。“うまみ”の深さが、もう別物なんだよね。
— それだけ違うんですか?
全然違うよ。菌床のシイタケは、水分量が多くてジューシーではあるけど、原木のシイタケは、うまみと香りが圧倒的に強い。
火を入れた時の香り立ちも違うし、歯ごたえもしっかりしてる。
特に、うちのシイタケは東京、名古屋、京都などの料理店に卸してて。今は80軒くらいかな。
“あんたのシイタケじゃなきゃダメ”って言われることが多いね。
— それだけ評価されてるってことですね。
うん、やっぱり料理人って本当に味に厳しいからさ。
本物を求める人たちに選ばれてるっていうのが、うちの誇りだね。

もともとは農業が嫌だった?気づけば職人の道へ
— でも、もともとは農業をやりたくなかったんですよね?
そうそう、俺、絶対に農家なんてやらないって思ってた(笑)
親がシイタケ農家だったから、小さい頃から手伝わされたんだけど、夜遅くまで働いてるのを見て、“こんな大変な仕事、俺には無理”って思ってたよ。
— じゃあ、なんで今は原木シイタケを作ってるんですか?
もう、流れだよね(笑)
高校卒業して、鳥取の椎茸栽培の専門学校に進んで、農業とは関係ない道に進もうとしてたけど、気がついたら家業を継ぐことになってた。
でも、やってみたら、やっぱり“自分が作ったものを美味しい”って言ってもらえるのが嬉しいんだよね。最初は嫌々だったけど、今は“やっててよかった”って思ってる。
原木シイタケを育てる難しさ
— でも、原木シイタケってすごく手間がかかるんですよね?
そうなんだよ。菌床なら3ヶ月で収穫できるのに、原木シイタケは2年かかるからね。
しかも、今は原木の確保がどんどん難しくなってる。
昔は東北から仕入れてたんだけど、原発事故の影響で使えなくなった。
それで三重とか長野から仕入れてるけど、今度は木を切る人がいない。
さらに、2024年の物流問題で、輸送コストが2倍になってる。
俺がこの仕事を始めた頃と比べると、原木の価格も倍になったよ。
— それでも、原木にこだわる理由は?
美味しいから。ただそれだけ。
でも、それが一番大事だと思ってる。
“手間がかかっても、本当に美味しいものを作る”っていうのが、俺の仕事だからね。

経営のやりがいと農協への疑問
— 経営をしていて、一番嬉しかったことは?
やっぱり人とのつながりが広がったことかな。
個人でやってるときは関われなかった人たちと仕事ができるようになったし、“あんたのシイタケが欲しい”って言われるのが一番嬉しい。
— 逆に、大変だったことは?
やっぱり農業って、価格が安定しないのがキツいね。
自然が相手だから、思い通りにならないことばっかり。
あと、農協の仕組みもどうなのかなって思うよね。
— どういうことですか?
農協って、ほんとに農家のためにあるのか?って思うんだよね。
例えば、シイタケの菌でも農協経由で買うと手数料が乗るわけ。
でも、俺はメーカーから直接仕入れてるから、その分コストがかからない。
“農家を守るための農協”って言うけど、実際は農協を守るための仕組みになってる気がするんだよな。
三年後のビジョン:現状維持が最大の目標
— 今後の目標について教えてください。
もう増やさない。現状維持が精一杯。
原木の確保が難しくなってきてるし、跡継ぎもいないから、俺の代で終わる可能性もある。
やりたいって人はいるんだけど、農業って気持ちがないと続かないからね。
— もし後継者が現れたら?
嬉しいけど、簡単にはすすめられないよ。農業は努力だけじゃどうにもならない部分がある。
最終的には、その人の感性やセンスがものを言う世界だと思う。
“気持ちが大事” 〜これだけは負けない信念〜
— 最後に、平松さんが大切にしていることは?
気持ちだね。どんなに大変でも、前を向いて進む気持ちがなければ続かない。
後ろを向いたら終わり。とにかく前を向いて進むしかないんだよ。
会社情報
インタビューを終えて
平松さんの話を聞いて、“好きだから”じゃなくて、“覚悟”で農業を続けているのが伝わってきました。効率を求めるなら菌床栽培に切り替える選択肢もあったはず。
それでも、「本当に美味しいものを作るため」に原木シイタケにこだわり続ける。
その姿勢こそが、料理人たちに愛される理由なんだと感じました。