「まあ、ええか」で切り替える力──直売トマト農家のリアル経営論【株式会社 横山農園】横山 請悟社長

PROFILE

株式会社 横山農園

横山 請悟

株式会社 横山農園

横山 請悟

愛知県内で40年以上にわたり続く農園。
冬はトマト、夏はメロンを栽培し、直売とレストラン経営も手がけている。今回インタビューに応じてくださったのは、そんな農園を継いだ2代目の社長。地域に根差し、農業を真面目にコツコツと続けながらも、ユーモアを忘れない姿勢に、終始こちらが惹き込まれる時間となった。
農業のリアル、経営のしんどさ、家族の話、そしてこれからのことまで。ざっくばらんに話してくれた内容を、そのままの言葉に近い形でお届けします。

 商品・サービスについて

「うちはね、トマトとメロンがメインです。冬はトマト、夏はメロンって感じ。
で、レストランもあって、お菓子も作ってます。だから何屋か分からんかもね(笑)」

トマトの中でも特に力を入れているのが「ファーストトマト」
愛知県の伝統野菜で、皮が薄く、もちっとした独特の食感が特徴だという。

「いろんな品種あるけど、やっぱりファーストが一番人気ある。味に深みがあるって言われることが多いですね。皮が薄いから食べやすいし、直売所で買ってくれた人のリピート率はすごいです」ミニトマトも複数種類あり、それぞれ風味や色合いが違うという。
10月から6月中旬まではトマトのシーズンで、そこからメロンに切り替える。

「夏のハウスでトマトは正直しんどいから、メロンに変えるんです。あと、長久手の方でイタリアンのレストランをやってて、そこでトマトやメロンを使ったデザートも出してる。飲食は弟がメインだけど、そこも大事な柱です」ファーストトマトを軸に、野菜もスイーツも料理も。
「自分のとこの作物を、ちゃんと口に入れてもらう方法をいろいろ考えてる」

──そんな姿勢が伝わってきた。

経歴について

「子どもの頃?まあ普通の、どこにでもおるようなやんちゃな子やったかな。野球ばっかりしてましたよ」進学したのは農業高校。周囲は“普通科”に進む中、自ら農業の道を選んだ。

「農高行った時点で、まあ、いずれ継ぐんやろうなとは思ってた。強く決意したっていうより、なんとなく、でも腹は決まってた感じ。で、その後は岡崎の農大へ」
農大時代、次第に「海外に行ってみたい」という気持ちが芽生えた。卒業後すぐにアメリカへの研修に挑戦したが、最初の試験に落ちてしまう。「なんか態度悪かったらしい(笑)
試験落ちる人あんまりいないのに、俺だけ落ちて」それでも諦めず、2年後に再挑戦。
24歳でカリフォルニアへ渡ることになる。

「めっちゃ楽しかったですよ。カリフォルニアの南の方で、サンディエゴから内陸に入ったところ。規模が全然違う。僕のいた農場でも3〜400人働いてたし、大きいところだと1000人とか」
現地では大学にも短期間通ったが、主な学びは農家での現場作業。言葉の壁も文化の違いも越えて、農業そのもののスケールと面白さに触れた。

「楽しかった。帰ってくるのが惜しかったぐらい。あの経験があったから、今も農業を楽しんで続けられてると思う」
帰国後は実家に戻り、本格的に農業の道へ。
今ではすっかり、地域に欠かせない存在となっている。

経営していて嬉しかったことは?

「嬉しいこと?…そんなにないんだけどね(笑)」
そう言いながらも、言葉を探すようにしばらく考えて出てきたのは、やっぱり“お客さんの声”。

「やっぱね、“美味しかったよ”って言ってもらえるのが一番嬉しい。それが一番シンプルで、一番励みになる。直売やってるから、お客さんの顔が見えるんですよ」
もう一つ、嬉しかったエピソードとして話してくれたのは、従業員たちの“人生の節目”だ。

「結婚するって報告を受けたり、子どもが生まれたとか、そういう話を聞くとね、嬉しいですよ。商売としてじゃなく、人としての関わりがあって、そこに喜びがある」
「一番嬉しかったことは何か」と聞かれると、迷う経営者は多い。
でも、「“小さな嬉しさ”を重ねてる」

──そんな言葉が似合う温かな答えだった。

経営していて難しかったことは?

「人集めですね。やっぱり人は難しい。これはどこも一緒ちゃうかな」
そう語る社長のもとでは、農場にもレストランにもパートさんが多く働いている。パートさん同士の人間関係がギクシャクしてしまうこともあるという。もう一つの難しさは、やはり“自然との付き合い”。

「病気出たり、うまく育たんかったりするのは、しょうがない。もちろん、病気が出ない方がええんやけど、そういうのに毎回落ち込んでたら身がもたんよ」
そういうときに大事なのは「切り替え」だという。

「まあ、ええかって思えるかどうかやね。真面目な人ほど悩みすぎてしんどくなる。農業って、意外と鬱になる人多いんです。ほんまに、亡くなってしまう人もおる。だから、多少ズボラくらいの方が続くのかもしれん」
“完璧じゃなくていい”“次がある”

──その割り切りの強さが、経営を長く続ける秘訣なのかもしれない。

社長のこれだけは負けないこと

「負けてばっかやけど(笑)、あえて言うなら…人付き合いかな」話しながら、社長が口にしたのは“2回会った人を大事にする”という独自の人付き合いのポリシーだった。

「名刺交換だけの人は山ほどいる。でも2回会う人って、何かしら縁がある人やと思ってて。だから、その人たちはちゃんと覚えてるし、大事にしてます」
地元のロータリークラブや、地域の朔日市など、顔の見える付き合いを大切にする社長。そこで得られる学びも多いという。

「やっぱね、桁が違う人たちと付き合うと勉強になる。“あ、この人なんでこんな影響力あるんやろ”って観察しとる(笑)」
表に出るタイプではないが、人と人の縁を自然に広げてきたそのスタンスが、地域の信頼につながっている。

 3年後のビジョンは?

「3年後?もうすぐやでね。多分、今とそんなに変わってないと思うけどね(笑)」
現在は本店と長久手店の2店舗で直売を展開。長久手店は新興住宅街の中にあるため、客層や売れ筋も本店とは少し異なる。

「長久手はね、キロ単位で買う人が少ないのよ。“2〜3個でいい”って人が多くて。でも、うちは2キロ単位で売るのが理想なんです。リピーターが毎週買いに来てくれる、そういう商売が一番いい」3年後にやりたいことは、「レストランをもうちょっと良くしたい」ということ。

「弟がやってるから、あんまり口出しできんけどね(笑)。でも、ピザ屋はちょっと本気で考えてる。うち、トマトもチーズも合うから、絶対おもろいと思う」
ビジョンというより、“やりたいこと”がふわっと浮かんでいる。そのくらいのラフさが、長く続ける秘訣なのかもしれない。

10年後のビジョン

「10年後?もう60歳やで。引退したいなぁ(笑)」
けれど、社長の中には「本当に引退できるんか?」という自問もある。

「うちの息子が中3なんやけど、やるって言えば継がせてもええよ。でも、そんな簡単ちゃうからね。俺もアメリカから帰ってきたのが26やったし、あの頃でやっと一人前のスタートラインやったもん」
だからもし息子が跡を継ぐと言っても、「引き継ぎに数年はかかるやろうな」と見ている。

「まあでも、やる気があるなら全然ええと思う。でもやっぱり“甘くない”ってことは伝えとかなあかん」そして、最後に印象的な言葉が返ってきた。

「今の形は、今の形で悪くない。けど、この先、世の中はもっと格差が出てくる気がする。だから“人との関わり”を大事にする直売スタイルは、むしろ強くなると思う」
大手に売るのではなく、目の前のお客さんと信頼を重ねる。それが、この農園がこれからも続いていく理由なのだと、改めて感じさせてくれた。

インタビューを終えて(社長の感想)

なんか、いろいろ話してたら、“三年後どうする?”とか“十年後どうしたい?”とか、普段あんまりちゃんと考えてなかったなって。ちょっと反省してます(笑)
日々のことでいっぱいいっぱいになっちゃってね、先のことまで手が回ってなかった。でも、今日こうして話してみて、やっぱりやれることは“今のうちにやっといた方がいいな”って思いました
経営者って、みんな何かしら考えてるとは思うんです。
でも、それを“ちゃんと口に出して整理する”機会って、なかなかない。こういう機会もらえて、良かったですよ。ありがとうね

会社情報

株式会社 横山農園

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株式会社横山農園

トマトとメロンの直売所とイタリアンレストラン
Osteria Camparo

おわりに

「なんとかなるよ」「まあ、ええか」

この言葉が、社長の口から何度も出てきた。軽く聞こえるかもしれないが、実はとても深い意味を持っている気がした。
トマトやメロンがうまく育たない時も、人間関係で気をもむ時も、「まあ、ええか」と切り替えて、次に向かう。その強さは、裏を返せば“悩み抜いた人にしか出せない言葉”だと思う。
経営者としての手腕も、人としての魅力も、派手なところは一切ない。でも、だからこそ、毎週通うお客さんが絶えない理由がよくわかった。
この人がいるから、この街はちょっと安心できる。この農園があるから、また明日も頑張れる──そんな風に思える、まっすぐな一時間だった。

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